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2012年2月28日火曜日

ケる子のういろう記(2012年2月9日~11日宮城県東松島)




2012年2月9日~11日の三日間。宮城県東松島の小野駅前仮設住宅に滞在させていただくことになった。東松島は松島と石巻のちょうど中間部にあたる。現在(2012年2月)も津波被害の為、JR線の復旧の目処はたっておらず、代行バスが走っている地域である。今回いっしょに東松島に向かった吉澤氏は鍼灸師。彼は鍼灸の治療で、今回5度目の被災地訪問となる。「自分が井戸を掘るだけじゃなくて、井戸の掘り方を伝えるようなことが出来ないかな」。数ヶ月前、酒盛りの席でポロッっとこぼれたことば。気になったのでどうゆうことか聞いてみると、どうも青年協力隊のボランティアの人のことばらしい。自分が現地を去ったあとでも、方法を伝えられれば、そこに住んでいる人達自身が井戸を掘り続けることが出来る。自分が治療するだけでなく、その場所に住むその人自身が、自分で元気になれることを伝えられないだろうか、そんな話をした。わたし自身も、震災があった後「自分で出来ること」から始められるケアのワークショップをしたいと考えていたから、何かきっと、方法はあるんじゃないかと、とりあえず今回いっしょに行ってみて考えてみたいと思ったのだ。


一日目。
わたしははじめての被災地への訪問。東北は絶対寒いと聞いていたのでぶくぶくに着膨れして行った。松島駅まで仮設住宅の自治役のTさんが車で迎えにきてくれ、小野に向かう。広い、平らな土地が広がる。空も広く、風は強い。雪は積もっていなかった。広い土地だなぁと思いながらも、もしやとはっとする。「このへんも家がいっぱいあったんだよ」。所々、家の土台がある。それがなければ、ただの平地だとしか思えない。それくらい何もない。「きれいになりましたね」と吉澤氏。「なぁ~」とTさん。ここに「あった」とゆうことに対する感覚、そこからわたしはよそ者なのだとはっきりと気づく。よそ者であり、見えないものが見えない、とても鈍感な人間なのだと、まずは肝に銘じようと思った。
今回私たちが主にいたのは仮設住宅の集会所。15畳くらいのスペースに、図書棚と調理場と机があってここが主な吉澤氏の治療スペースとなる。到着するとおばあさん達が4人くらいがちゃぶ台に集まっていて、「こっちおいで」と招いてお菓子やお茶を並べてくれた。「これ食べぇ」とお茶請けに持ち寄りの漬け物がどんどん出てくる。話には聞いていたけれど、こちらの人達は飢え死にさせてはいかんというくらい、食べ物を勧めてくれる。漬け物はみなとても美味しく、「これ、手作りですか?」ときくと。「そだよ。でも大きな漬け物壷はみんな流されたぁ。」と言っていた。

少し一服して、吉澤氏の治療スペースを作って治療所を開設。今回のあたしの作戦(?)は受付ノートを書いてもらって待ってもらっている間に色々身体のことの聞いたり、お話をしてまずはリサーチすること。あとはマッサージをしながら、自分で出来る、気持ちいい身体の動かし方についてお話していくこと。「何か残せるものを」とも事前に相談していたので、ちょっとしたプリント(かんたんな操体法という身体の動かし方)を作って手渡したりもした。


大体一日に10~20人くらいのお客さんがくる。集会所なので、ぶらりとただ立ち寄る人もいる。そんな中で色んな人の話を聞く。津波の水は真っ黒だったことや、地震の直前は普通にタイヤキを食べていたこととか、体育館で泳いだ話など。人々が話すことは、わたしが普通に考えていることなんてすっかり超えてしまってる。一見穏やかに思えるこの日常の中で、誰もが実際には想像出来なかったようなことを体験してしまい、それらを抱えて暮らしている。足が痛むというおばあさんの足をさわってみると、すっと伸びたきれいな足先だった。「とてもしっかりした素敵な足ですね!」と言うと照れながら「農家やったから」と答える。ここの年配の人達は、どこかに不調を抱えながらも背がすっと通っていて、力強さを感じる人が多い。漁師、農家と言った自然産業に携わる人が多く、暮らしを支えていたのだ。身体の形から、その人が踏みしめていた大地を思う。


二日目。

午前中、吉澤氏治療の傍ら、今日も、色々話したり動いたり。そしてお灸談話を導入。お灸談話とは吉澤氏が知り合いの方から「おれも何かしたいので、これを持って行ってくれ」と預かった市販の自分で出来る簡単なお灸を使って、治療待ちの人とお灸をしながらお茶を飲んでしゃべること。初お灸の私も、ポイントを教えてもらって、来てくれた人に伝える。しゃべりながら、皆さん手やら足からプワプワ煙が出ていて、お灸のもぐさの香りが漂う。不思議な光景だがリラックス出来る。昼からはまた別の体操教室の人が集会所にやってくるらしく(やはり定期的に運動出来る習慣を作る為なのだそう。だから今後もダンスは、ニーズはあるはず。)治療所を一旦閉めて、地元のKさん一家が車で被災地沿岸を案内してくれることになった。
覚悟はしていたけれど、言葉を失う光景は一年経とうとする今もあるのだ。建物が斜めに傾むいて浸水している様子や、がれきの山。そんな中で一度は砕けて、流されたであろう墓地の石がひとつづつ丁寧に、人の手によって立て直されたあとを目にする。ボランティアの人達の手があって助かったとKさん達は話していた。
はじめ、カメラを向けようとした時、手が止まった。けれど、と思い「あったことを、話したいから」と口にしようとするが、うまく言葉が出てこない。運転手のおじさんが「写真とりたい所があったら言って、ゆっくり走るから」と。それからおばさんは丁寧に、今走った場所が以前はどうゆう場所だったのか話してくれた。道沿いにポツポツと大きなカメラを持った人が歩いている。「もうすぐ一年だから取材の人が増えて、そっからまたきっと減るんだぁ」。

74名の児童が亡くなった、大川小学校の前を通る。一旦停止してくれたものの少し様子がおかしい。体育館に入る、記者のような人が見えた。「降りますか」と聞かれたけれど「いえ、いいです。」とそこをあとにした。「ここはやっぱりしんどい」と娘さんは言い、「あの人、なしてなぁ、はいらねぇでなぁ、はいらねぇで」とおばさんは呟いていた。それは、私がここにきてはじめて聴いた、小さな叫びのように響いた。ここにいるあたしも、あの記者の人も、何も変わらないじゃないかと思う。カメラを向け、見たり聞いたりする。それでも、話してくれようとする「ここ」の人達に対してあたし達は何が出来るのだろう。その後も車で走り沿岸部をまわり、帰りは道中にある焼き芋屋さんで「病院の帰りはいつも買って帰るんだ」とおばさんは焼き芋を買ってくれた。金色のほくほくした焼き芋はほんとに優しい味がした。


三日目。
「おっはよーございまーす!」私たちを気にかけて、今日もTさんは朝ご飯を持って来てくれる。昨日は和食、今日はイングリッシュブレイクファースト(パンに卵にコーヒー)!Kさんは料理上手なのだ。元気になってもらいたいと思って来ていたのに、現状はこちらのほうが「何やっとんねん、しっかりせな」と思わされる。当たり前のことが当たり前でなくなった土地で、当たり前のことを当たり前に出来る尊い人達が復興を生きている。
今日は集会所で炊き出しがあるので、治療院は仮設住宅の一つだけあいている一室に一時だけお引っ越し。わたしは今日は炊き出し組。一昨日の夜ごはん時に、「甘酒が呑みたい」という話が出て「炊飯器で作れるらしいですよ」と迂闊に答えた為、急遽甘酒を作る係になったのである(作ったことないのに)。
炊き出しにはRQ支援センターの女性が中心になって来ているグループと、みまもり隊という元は農業の支援をしていた学生ボランティアの人達がきていた。流石に慣れているのだろう、のべ40~50人くらいの炊き出しがささっと準備され、お昼時の集会所が賑わう。甘酒も昨晩からレシピを検索して作ったかいあって、おばあさん方が喜んでくれたのでうれしいかった。

その後、炊き出しボランティアの女の子達が「肩が凝るのだ」と話していたので「肩こりに効くダンス」の話をして、ちょっとやってみることになった。気持ちの良いと思う方向にどんどん身体を動かして身体の歪みをとる方法(詳しくはプリントPDF)。これを繋げるとダンスになるんだよ、という話をしてちょっとだけ踊ってみる。女の子たちがわいわい手を振る。「普段どうゆうダンスをしてるんですか?」ときかれたので「多分、、コンテンポラリーです」と答えると皆「しらねぇ」と言っていた。

帰る時間が近づいてきたので、帰り支度。昼すぎからはここでデジカメ教室をやることになっていると話している。ここの活集会場の活発さに驚く。この小野駅前仮設では「小野駅前郷プロジェクト(http://onoekimae.exblog.jp/)」という復興プロジェクトを仮設の住人達自ら立ち上げようとする動きが出てきている。資金や行政との兼合いなど、問題はたくさんある。何せ立ち上げようとしているのは、被災地の住民自らなのだ。けれど「自分たちから動かないと変わらない」とKさんはプロジェクトについて話していた。このような被災地の人自らの動きを援助出来る仕組みを考えていくことも、これからの復興支援の一つの課題だと思われる。
帰るときも荷物を減らす為にぶくぶくに着膨れる。寂しいなぁと佇んでいると「それは北海道か、スノボですよね。」と女の子につっこまれる。やはり着込み過ぎだった。「ばいばーい」と見送られ、車に乗り込む。
帰る道すがら窓の外に目を見やる。目の前に広がる何もない景色に、胸がかさかさ音を立てる。それなのにまるで親戚の家を離れるみたいで、幼い頃、毎年父の田舎に行った帰りには、寂しくて泣いていたことを思い出した。



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2012年2月20日月曜日

「震災復興支援♥心をつなぐアートプロジェクト」 2012年1月活動報告書

>>1/25(水) 12:30-16:30「中津川浩章の似顔絵屋さん&コーヒー・サロン」
講師:中津川浩章(なかつがわひろあき/美術家)
場所:仙台市青葉区川内公務員住宅集会室
参加人数:似顔絵14名 コーヒーサロン38名 計52名(のべ)
共催:NPO法人JCDN
協力:一般社団法人パーソナルサポートセンター
助成:日本財団ROAD PROJECT
ここ青葉区の川内公務員住宅の一部は、いわゆるみなし仮設として、150世帯のみなさんが住んでいらっしゃいます。パーソナルサポートセンターの鈴木さんより、ここは支援が少なく、なかなか人が集まってこないのでとお話を頂き、似顔絵屋さんとコーヒーサロンを実施しました。








集会室では2週間前からやっと太極拳のクラスがはじまったばかりで、スタッフの佐藤さんも「どれだけ人が集まってくれるかわからないのですが」と、不安顔。それでも、受付の12:30になるとすぐに数人の方々がいらっしゃいました。最初の一人を描き始めると、他の方々はコーヒーを飲みながら、自己紹介や住まいの情報交換などの楽しいおしゃべりが始まりました。
初めは、みなさん「絵を描いてもらうなんてはじめてで。」と緊張した面持ちでしたが、描いてもらった後は、満面の笑顔。「若く描いてもらっちゃったわ〜」「似てる〜」「実物の3割増し!」など、照れながらも、とっても嬉しそうです。
お互いに描いてもらった絵を見せながら、会話も進みます。







 
中津川さん曰く「初めはみんな緊張してはずかしそうなんだけど、描いているうちに見られることに慣れてきて、『私はここにいる』と存在感を放ってくる。最後に絵を受け取ったとき最初と全然違い、顔が輝いていて、その変化を見るのが感動的。」中津川さん自身は、普段は抽象画を描いていているのですが、「肖像画にはまってしまいそう。」とまで言うほど、何か深くつながるものがあるようです。



仙台市青葉区のまちづくり推進課の方々も、様子を見に来てくれました。行政の方もコミュニティ作りにとても熱心で、みんなで復興しようという気持ちを共有できたような気がします。また、この写真は仙台にお住まいの写真家、石原真澄さんが私のカメラを使って撮影してくれました。同じカメラでも、ちょっといつもと雰囲気が違います。このように、素敵な人たちの協力あって暖かな場がつくられています。(三ツ木紀英)
撮影協力:石原真澄

>>1/26(木)「アクションお絵かき!」中津川浩章(なかつがわひろあき/美術家)
    9:15-10:10 4歳児22名 保育士1名 10:20-11:15 5歳児23名 保育士1名
「からだであそぼう!」講師:新井英夫(あらいひでお/ダンサー・体奏家)
9:15-10:10 5歳児23名 保育士1名 10:20-11:15 4歳児22名 保育士1名
    場所:南相馬市立八沢幼稚園
    参加人数:アクションお絵かき 計47名、からだであそぼう計47名 計94名(のべ)
12月の南相馬滞在時に、ある幼稚園から紹介して頂き、八沢幼稚園とつながることができました。ここは9月に園を再開したこともあり、なかなか子どものための支援がなくて、探していたのだそうです。現地に足を運んでこそ、入ってくる情報があります。私たちが伺うと、園長先生をはじめ、保育士さんも子どもも大歓迎してくれました。
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「からだであそぼう!」
まずは5歳児さんとからだであそぼう!舞台から出てきたピンクチューブにきゃーきゃー声を上げていましたが、新井さんがでてくるとあっという間に笑顔に。


 




 
輪になってビックリ顔をしたり、お互いをマッサージしたあと、太鼓の音でバラバラダンス。







2人一組でカタツムリになったり。



これは「クワガタ」!色んな発想がドンドン生まれてきます。
最後は2人一組のお友達と仲良くなるダンス。息をあわせて仲良くダンスできました。(三ツ木)


次は4歳児さん。舞台の幕の陰から布チューブをかぶって登場した新井さん。足の部分だけが見えた時は、まだ「?」の子ども達。全身が現れると、予想以上の謎の生き物の出現に部屋中を逃げ回りました。



驚きの出合いの後には、新井さんの演奏にのせて握手でごあいさつ。



身体をほぐした後は、ガイコツ先生に享受してもらったバラバラダンスで全身を柔らかくしていきます。


さらに互いの動きをまねする鏡ごっこ!



おっとっととなるような大きな動きから、ちょっと首をかしげるような小さな動きまで、互いをじっと見つめあいました。


最後は新聞紙を使って花火!思う存分空に打ち上げます。本日2つ目の活動でしたが、最後までつかれたという声もなく、集中して遊びきることができました。



子ども達がチューブのトンネルをくぐった後は、「くぐれるかしら」と心配しながら先生も挑戦。さらに、新井さんと2人のチューブ人間になって子ども達をわかせました。(近田)
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「アクションお絵かき!」
4歳児さんは中津川浩章さんの「アクションお絵かき!」から。大きい紙に身体をいっぱいに使って線を描きます。まっすぐな線、ゆっくりな線。クネクネな線。





  
あっと今に紙が色でうまり、完成作品を見た先生曰く「パワースポット」のような、ぐりぐりと線が何重にも重なった部分がいくつもできていました。





  
今度は好きな色のクレヨンをもって、紙の上を端から端へ。色を変えて、何度も何度も飽くことなく紙の上を行き来しました。はじめは一本だったクレヨンも、両手もち、2本持ち、3本持ちに。最後は手にあふれんばかりに持って、紙をうめてゆく線や色の重なりを楽しみました。(近田)





   

続いて、5歳児さん。好きな色でまっすぐな線を描いてみようの中津川さんに声に、最初は戸惑いながらも、段々エンジンがかかり、いつのまにか画面が埋まっていきました。








    
渦巻きをグルグル描くところで、ぐっと集中力がでてきました。男の子たちは何人かで一カ所に何層にも色を重ねています。




  
出来上がった絵をホールに展示。上が4歳児さん、下が5歳児さん。見に来た遅番の先生が「すごい八沢幼稚園!芸術だわ!」とその迫力にびっくり。



終わった後のふりかえり。保育士さんからは、「全身使って動くような活動は中々出来ないが、今日は体を十分に使って、のびのび活動できた。」「お友達の体に触れあったりできてよかった」「支援が必要な子がとてもよく集中できていてびっくりした。」「4歳、5歳の様子で導き方が違っていてさすがだと思った。」「保育士だけだとどうしても固定概念があるけど、今日はとてもダイナミックにできた、子ども達のいつもと違う笑顔が見られた。」と。
アーティストからは「続けて2時間の活動なのに、よく遊べていた。」「4歳児さんはとても工夫して体で表現できていた。」「チームワークがよく、よく動き回って描いていた。」「5歳児さんは、クワガタなど勢いにのっているととても面白いものがでてくる」などのコメントがでました。
みなさんとても喜んで下さって、会津料理の給食を出して下さったり、帰る時には保育士さんみなさんで外にでて、寒い中タクシーが見えなくなるまで手を振って見送ってくださいました。別れがたい出会いでした。(三ツ木)


>>1/26(木)保育士講座
「からだであそぶ」講師:新井英夫(あらいひでお/ダンサー・体奏家)
 14:30-15:30 上真野幼稚園保育士3名 上真野保育園 保育士3名 計6名
「絵で気持ちを表現する」中津川浩章(なかつがわひろあき/美術家)
15:40-16:45上真野幼稚園保育士3名 上真野保育園 保育士3名 計6名
    場所:南相馬市上真野幼稚園
    参加人数: 計12名(のべ)
私たちが南相馬に来てワークショップすることは子どもにとって、限られた特別の時間になってしまいます。上真野保育園の園長先生に相談し、日常の遊びのヒントになるような保育士さん向けの講座をさせて頂くことになりました。


「からだであそぶ」
新井さんの講座では、子どもたちと身体を使って楽しむ時に、動きのイメージを広げるコツや、ゲームの様に自然と動いてしまう方法を、解説とともに体験して頂きました。いくつかのシンプルなルールで、思いもよらない不思議なポーズや、いつもは使わない部分の動きが引き出されていきます。新井さんの活動では思い切り走ることが難しい限られた場所でも、汗がじっとりにじみ、大人の場合は次の日筋肉痛になるほど。自分と他者の動きへの集中力も求められ、それが達成感や充実感にもつながるように感じます。





 
外で思い切り身体を動かす機会を奪われている子ども達にとって、園のホールで遊べる少ない時間の中で、いかに全身を使った質の高い活動ができるかは切実な問題です。身体にも心にも大きく関わってくることではないでしょうか。体力の低下を先生方が心配し、実際にすでに感じてもいるようです。厳しい状況の中ではありますが、講座を始めると先生方もすぐに夢中に。終始笑顔あふれる交流のひと時になりました。(近田)



 
「絵できもちを表現する」
水彩やクレヨンを使って、自分の気持ちをどう表現するか、簡単なようで難しいことです。中津川さんの講座では、水に濡らした紙に「今日の気持ち」「イライラ」「ワクワク」「ドキドキ」を水彩で表現していきました。また地震がきたらどうしようという「ドキドキ」する気持ちを描いたり、答えの見つからな今の状況を、黒や茶、深い青などで表現する方もいらっしゃいました。子ども達とは元気に過ごしている反面、保育士さん自身も不安を抱えていらっしゃる現実が垣間みられます。




  
楽しい気持ちを表現することで、もっと元気に。あるいは、モヤモヤした不安に色や形を与えて、絵にしていくことで、気持ちを少し客観視できます。また、意識的にも無意識的にも、描いた絵には色や形に意味や理由があります。描いた絵を変に分析するということではなく、子ども達と絵についてお話することで、その子のことがよりよく理解することができるのではないでしょうか。最後には「子ども達と早速絵を描いてみます」という声も。短い講座でしたが、室内での子どもとの遊びのヒントにしてもらえればと思います。(三ツ木紀英)

>>1/27(木)「アクションお絵かき!」中津川浩章(なかつがわひろあき/美術家)
    9:40-10:40 4歳児23名 保育士2名 10:50-11:45 5歳児38名 保育士5名
「からだであそぼう!」講師:新井英夫(あらいひでお/ダンサー・体奏家)
9:40-10:40 5歳児38名 保育士5名
    場所:学校法人白百合学園 白百合幼稚園
    参加人数:アクションお絵かき 計66名、からだであそぼう計43名 計109名(のべ)
「からだであそぼう」
福島市は原発から60km離れていますが、放射線量は低くなく、子どもは外で遊べません。今回は初めて福島市内の幼稚園を訪れました。外は20分だけ遊んで良いことになっていますが、子ども達は廊下を走り廻っているので、欲求不満が溜まっているのかも。と先生。今日は思い切り遊んでもらいます。
まずは40人の5歳児さんとからだのワークショップ。2クラス合同で、大人数だったのですが、みんなよく集中して遊べました。



おきまりのピンクチューブに歓声をあげて、逃げ惑う子ども達。ウォーミングアップは、寒さを吹き飛ばす、ゴキブリダンス。



3人一組でほっぺ歩き。





  
鏡遊びも、息をあわせてできています。「楽しい〜」という声も。右の写真は2人一組でキノコになっています。同じキノコでも、色んな表現があります。





  
この2つは象さんです!8人で協力して、両脇の耳や鼻、牙やしっぽになりきっています。



最後は息をあわせて、「お友達と仲良しダンス」。1時間の身体遊びを思い切り楽しみました。(三ツ木)
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「アクションお絵かき!」
4歳児さんは中津川さんの「アクションお絵かき!」を体験。「まっすぐな線を描いてみよう」との言葉に、慎重にクレヨンを動かす子ども達。なんとも丁寧な線に、子ども達の几帳面さがうかがえました。





  
そんな子ども達も次第に腕の速度を増してゆきます。紙の上にのってダッシュ!次第に身体の動きと描くことが一体になっていきました。



何人かでまとまって、ものすごい勢いで渦を描く様子も。後ほど聞くと「色の対決」をしていたそう。幾層にも重なったクレヨンを、爪を使って削り取る姿も見られました。活動の入りこみ方に個々の違いが見られましたが、どの子も夢中になれる瞬間があったのではないかと思います。




次は5歳児さん。広いホールに、長い紙を2列用意して活動スタートです。


音を聞いて描く活動では、新井さんが演奏を。単にリズムに合わせるだけでなく、短い線をすっと描いたり、ギザギザの線を描いたりと、音を繊細にとらえていました。中にはトライアングルの音に、星の様なキラキラを描く子も。身体的な表現から物語性のある表現まで、表現の幅の広さを感じました。


紙が色の渦で埋まってゆきます。


クレヨンの二刀流!次第に小さくなってゆくクレヨンに、互いに使いたい色を貸しあう姿も見られました。


物語を紡ぐ子がいれば、身体を解放させて描く子もいます。






活動後、5歳児さんの作品(上2枚)と4歳児さんの作品(下)をホールに飾りました。展示をすると、改めてせまってくるような迫力を感じます。(近田)

終わってからの振り返り。4歳児担任先生は、「線だけでこんなに長い時間遊べるのかと驚いた。規制しないのがいい。のびのびできていた。」「終わったあとももっとやりたい。紙を裏返して、後でやろうなどと言うほどだった」
5歳児担任先生は、「からだで遊ぼうでは、支援が必要な子も、すごく楽しんでいた。外遊びの制限の中、よく遊べて本当に良かった。それぞれ1時間ずつよく集中していた。」「絵を描く方では、はじめ、一人の女の子のリーダーが、使う色をみんなが真似していたが、ルールがわかって楽しめてくると、全然違う色を自分で選べるようになっていたのがとても良かった。」「あんなに大きな紙に、何も考えないで描ける楽しさ。様子を見ていて、描くことがストレス解消になるのかと思った。」と。
アーティストからは、「バランスよく集中できていた。一つのエネルギーになって、ワクワクと育っていった」「きもちを表現させることを大事にしている。溜まっているものをはきだせた気がした。」とコメントが。園長先生からは、「これからも長い生活となる。6−7月にまた是非来て欲しい」というご希望も頂きました。「これからの長い生活。」、、、。マスクをかけながら、子どもと一緒に生きていくという若い保育士さんのきりっとした表情が強く私たちの心に残りました。(三ツ木)

>>アーティスト・コメント 中津川浩章(なかつがわひろあき/美術家)
初日は仙台青葉区のみなし仮設住宅で「似顔絵屋さん」。今回で「似顔絵屋さん」は3回目になりますが、実施すればするほど奥が深いものになっていった気がします。女性はしっかりお化粧をしてきていて気合い充分です。描き始めると、初めてモデルになることに戸惑い、軽い緊張感を感じている様子。でも5分を過ぎるとモデルさんの表情が次第に変化してきます。最初は生活感を漂わせているのですが、時間が過ぎると凛としてくるというか、少しづつ美しく感じられてくるのです。ここにいて今生きていることを肯定する感じといっていいかと思います、人間の尊厳そのものが立ち上ってくる感覚です。描かれるという行為はその人間がそこに存在することを深く肯定する行為なのだと改めて思い知りました。写真ではない魅力が確かにあります。完成した肖像画を見たときのみなさんの表情がとても喜びに満ちていて、描き手として最もうれしい瞬間でした。最初は怪訝そうな表情をしていたスタッフさんも徐々にほぐれてきて最後には気持ちよく支えていただき、充実感を持つことができた時間でした。
次の日は八沢幼稚園で「アクションお絵かき」バランスがよくとても美しい画面が出来上がりみんな大満足でした。午後は上真野幼稚園で先生方にWSをしました。様々なテーマで水彩画やクレヨン画を描いていったのですが、地震や津波の痕跡や不安、そして南相馬で生きていくことに対する覚悟などが読み取れて少し胸が詰まりました。翌日は福島に移動して白百合幼稚園での「アクションお絵かき」、園に入ると子供たちは外で遊べないからなのか園内を駆け巡っていてすごいパワーです。「アクションお絵かき」もみんな描くことの気持ちよさに身をゆだね楽しんでいました。一人の女の子が近づいてきて「こんなことしてどういう意味があるの?」と聞いてきました。「描いていて楽しくないの?」と聞き返したら「楽しい~。」と答えたので「だったら楽しめばいいんじゃない」と答えたらにっこり笑って描くことに集中していきました。ワークを終えて先生方とフィードバックをした際に子供たちを守りながら福島で生きていく覚悟が、その言葉や表情から感じられて胸が締め付けられる思いでした。東北での被災地ワークショッププロジェクトは、続けてきて本当によかったのですが、ある意味自分たちではどうしようもない現実があらわになってきて時々無力感に襲われてしまいます。東京に帰ってくるといつも福島のことを考えている自分がいます。

>>アーティスト・コメント 新井英夫(あらいひでお/体奏家ダンス・アーティスト)
今回は南相馬市と福島市の幼稚園3園で園児や保育士さん対象にワークショップを行ってきた。原発事故以降、外遊び不可で子どもたちにストレスが溜まっているとのことなので、室内でからだを動かす「ふれあいダンス」や「表現遊び」を準備した。どの現場も歓迎して受け入れてくださり、各所のワークショップは盛り上がった。滞在3日間を終え、東京への帰途。子どもたちや保育士さんと楽しくからだを動かせたぶん、新幹線の車中では福島から東京へたった1時間半という時間的な近さとふだんどこかで「他人ごと」にしている自分の心の距離とのギャップにいつも目眩のようなやるせない感覚に襲われる。私は帰っていくのだが、あの子たちはフクシマに暮らしているという事実。幼稚園に「ごくふつうに放射線量計がある日常」を目の当たりにしてなんと申し上げていいか、言葉がみつからなかった。ある保育士さんは「これからも長く続くことですから」と淡々と話された。子どもたちの外遊びが制限されている中で、試行錯誤と覚悟をしながらの保育の日々。「これから(避難という選択肢も含んだ将来)」と「いまここ(暮らしている日常)」の双方をみつめて現地で幅を持った多様なサポートのかたちが求められているように感じた。地続きだという想像力を忘れず、引き続きお手伝いできることを模索していきたい。

3日間のワークショップ参加人数 合計 267名
助成:日本財団ROAD PROJECT
アーティスト:中津川浩章(美術家)、新井英夫(体奏家・ダンスアーティスト)
主催・企画:NPO芸術資源開発機構(三ツ木紀英・近田明奈)
共催:NPO法人JCDN
協力:一般社団法人パーソナルサポートセンター
助成:日本財団ROAD PROJECT



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